7-1-1 単純承認・放棄・限定承認の選択

7-1-1 単純承認・放棄・限定承認の選択

Q.

先月亡くなった父は、会社を経営しており、会社の借金について連帯保証人となっていたようです。このまま父を相続して良いか心配です。

A.

まずは、お父様の保証債務がどれだけあったのか、早急に調査することが必要です。
その上で、お父様の相続財産よりも相続債務の方が金額が大きいようであれば、相続の放棄か限定承認を検討することをお勧めします。

(1)相続の単純承認・放棄・限定承認

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続の単純承認・放棄・限定承認のいずれかを選択します。

(2)相続の対象

相続財産には、不動産や預貯金のような積極財産(いわばプラスの財産)だけでなく、借入金のような消極財産(いわばマイナスの財産)があります。相続は、これらの積極財産と消極財産を一体として見たすべての相続財産を対象とし、特定の財産のみを相続することはできません。
従って、相続の単純承認・放棄・限定承認のいずれを選択するかは、一般的には、積極財産と消極財産のそれぞれの額を比較し、積極財産が多い場合は単純承認を、消極財産が多い場合は放棄を、不明な場合は限定承認を選択します。
もっとも、相続放棄と限定承認の選択については、若干複雑なため、後で詳しく述べます(【相続放棄と限定承認の比較】)。

(3)単純承認

相続人が相続を単純承認した場合、相続人は、無限に被相続人の権利義務を承継します(民法920条)。
この「無限に」という言葉は、被相続人に借入金などの債務があった場合、相続人は、相続財産のみならず自分の財産からも債務を弁済する責任が生じることを意味します。

(4)放棄

相続人が相続を放棄した場合、その人は、初めから相続人とならなかったものとみなされ(民法939条)、被相続人の権利義務を承継しません。

(5)限定承認

相続人が相続の限定承認を行った場合、相続人は被相続人の権利義務を相続します。
ただし、被相続人の債務を弁済する責任は、相続によって得た財産の限度で負います(民法922条)。

(6)熟慮期間

単純承認・放棄・限定承認を選択する期限は「自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内」です。この期間を「熟慮期間」と呼びます。

(7)熟慮期間中に選択を行わなかった場合

相続人が、熟慮期間中に相続の放棄又は限定承認を行わなかった場合は、相続を承認したものとみなされます(民法921条2号)。
従って、相続人が相続を承認したい場合は、特に何の手続を取る必要もありません。世間一般のほとんどの相続の場合、何の手続もなく単純承認がなされています。

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弁護士  加藤 尚憲

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