10-4-5 複数の遺留分侵害行為があるとき

10-4-5 複数の遺留分侵害行為があるとき

Q.

先日亡くなった父の遺言書が見つかりました。
遺言書には、(3人兄弟のうち)「長兄に相続財産をすべて相続させる」と書かれています。
また、次兄は、父が亡くなる直前に父から生前贈与を受けていたようです。
私は、自分だけが相続から除外されるのは納得がいかないので、兄達に遺留分侵害額請求をしたいと思います。
私は長兄、次兄のそれぞれに、どれだけ請求をすればよいのでしょうか。

A.

複数の遺留分侵害がある場合、民法の定めた順序に従って、遺留分侵害額請求を行います。詳しくは下記をご覧下さい。

(1)遺留分侵害額請求の順序(民法1033条)

複数の遺留分侵害がある場合、次の①~③の順に、優先して遺留分侵害額請求の対象となります。

①(a)遺贈、(b)相続分の指定(*1)、(c)遺産分割方法の指定(*1)
②死因贈与
③生前贈与(贈与が複数あるときは、後でなされた贈与から順に減殺の対象とします)

同順位の遺留分侵害額請求の対象が複数あるときは、遺言に特別の定めのない限り、目的物の価額の割合に応じて減殺されます (民法1034条)。

(*1)相続分の指定、遺産分割方法の指定( 「相続させる」旨の遺言を含む)については、法律の明文はありませんが、遺贈と同順位で減殺の対象になると考えられています。

(2)具体例

①家族の紹介
良太郎さんには、息子の太郎さんと次郎さんがいます。
また、太郎さんには息子の小太郎さんと小次郎さんがいます。
良太郎さんは孫の小太郎さんと小次郎さんを大変可愛がっていました。

遺留分侵害額の順序(民法1033条)

②良太郎さんの遺言と生前贈与
ある日、良太郎さんが天寿を全うして亡くなりました。良太郎さんが亡くなった時、相続財産は預貯金9000万円でした。
良太郎さんは、亡くなる前に遺言を残していました。遺言書には「孫の小太郎に預貯金から1000万円を遺贈する」、「小太郎に遺贈した後に残った預貯金(注:即ち8000万円)は、すべて太郎に相続させる」とありました。
また、良太郎さんは、亡くなる半年前に、小次郎さんに生前贈与として1000万円を渡していました。

遺留分侵害額の順序(民法1033条)

③遺留分侵害額請求
良太郎さんの遺言によると、次郎さんは相続財産を一切相続できないことになるので、次郎さんは遺留分侵害額請求を行いたいと考えています。
次郎さんの遺留分の割合は、遺留分算定の基礎となる財産の4分の1です。
死亡前1年以内の生前贈与も遺留分計算の基礎となる(【遺留分算定の基礎となる財産】)ため、良太郎さんの相続財産である預貯金9000万円に加え、今回は良太郎さんの小太郎さんへの生前贈与1000万円も遺留分算定の基礎となります。
従って、次郎さんの遺留分は、1億円の4分の1の2500万円となります。
さて、次郎さんは、太郎さん、小太郎さん、小次郎さんのうち、誰に対していくらの遺留分侵害額請求を行うことができるでしょうか。

(結論)

次郎さんは、小太郎さんと太郎さんの2人に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
次郎さんが遺留分侵害額請求を行う場合、次郎さんは、小太郎さんに対して2,777,777円分、太郎さんに対して22,222,222円分の相続財産返還を請求することができます。

(解説)

次郎さんによる遺留分侵害額請求の対象として考えられるのは、①小太郎さんへの遺贈、②太郎さんへの相続分の指定、③小次郎さんへの生前贈与です。
この中で遺留分侵害額請求の順序を考えると、上記(1)でご説明した順序に従い、 ①小太郎さんへの遺贈と②太郎さんへの相続分の指定は、互いに同順位で、③小次郎さんへの生前贈与に優先して、遺留分侵害額請求の対象となります。
また、同順位である①小太郎さんへの遺贈と②太郎さんへの相続分の指定は、それぞれの目的物の価額の割合に応じて遺留分侵害額請求されることとなります。

以上に基いて計算すると、以下の通りとなります。
①小太郎さんに対する遺留分侵害額請求の価額
2500万円× 1000万円/(8000万円+1000万円)=2,777,777円
②太郎さんに対する遺留分侵害額請求の価額
2500万円× 8000万円/(8000万円+1000万円)=22,222,222円
③小次郎さんに対する遺留分侵害額請求の価額
なし(太郎さん、小太郎さんに対する遺留分侵害額請求によって、遺留分全額の回復を図ることができるため)

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