相続法の改正により、令和2年4月1日以降に発生した相続について、配偶者が所有権を持たなくても自宅に住み続けることを保障する権利を設定することができるようになりました。
この権利を配偶者居住権といいます。
配偶者居住権には、配偶者短期居住権と配偶者長期居住権の2種類があります。
最高裁の平成25年9月4日決定により、非嫡出子の相続分が嫡出子と同じになりました。このことから、相続の際に配偶者の地位を保護する必要があるのではないかという意見があり、相続法改正で新たに配偶者居住権という権利が創設されました。
配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合、遺産の分割がされるまでの一定期間(6ヶ月程度)、その建物に無償で住み続けることができる権利です。
配偶者長期居住権は、配偶者が相続財産である建物に相続開始のとき居住していた場合、一定の条件を満たせば、その居住建物を無償で使用及び収益をする権利です。 配偶者長期居住権を設定する場合、登記が必要です。
配偶者長期居住権は、いつでも当然に認められるものではなく、以下の3つの場合に限られます。
①(令和2年4月1日以降に作成する)遺言書で権利を定めたとき
②遺産分割協議で配偶者長期居住権を定めたとき
③裁判所の審判で配偶者長期居住権を定めたとき
配偶者居住権の存続期間は当事者間で決定することができます。定めがない場合は終身の間(配偶者が死亡するまで)とされています。
配偶者長期居住権は、元々、「実家の土地建物を相続した子供が、遺産分割後に被相続人の配偶者を追い出す可能性があるのではないか」という懸念などから生まれました。
しかしながら、配偶者には2分の1という大きな法定相続分があるのですから、わざわざ配偶者長期居住権を設定せずとも、配偶者は、自宅そのものを相続すれば、誰にも追い出されずに済むはずです。
従って、配偶者長期居住権が利用される場合は、限られたものになると考えられます。
但し、被相続人が2回以上結婚し、先妻の子と後妻が相続人になる場合は、配偶者長期居住権は大変便利です。
このような場合、被相続人は、後妻の生活を保障するため、遺言書を作成し、後妻に自宅を相続させようとすることがあります。
なぜなら、先妻の子に自宅を相続させると、先妻の子が仲の悪い後妻を自宅から追い出す可能性があるからです。
もっとも、単に後妻に自宅を相続させると、後妻の死後、(後妻に子がなければ)縁もゆかりもない後妻の兄弟姉妹が自宅を相続する可能性があります。
自宅が先祖代々のものである場合、この問題は深刻です。
そこで、遺言書を作成し、自宅の所有権は先妻の子に相続させるとしながら、自宅に配偶者長期居住権を設定することで、後妻が安心して生涯自宅に暮らすことができるようになります。
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弁護士 加藤 尚憲