Q.
相続人の中に認知症の人がいます。このまま遺産分割をしてよいでしょうか。
A.
認知症の方に「意思能力」があるかについて注意が必要です。専門家にご相談下さい。
法律上有効に意思表示をすることができる能力を「意思能力」といいます。
夫婦・兄弟など、同世代の方の間での相続では、相続人が高齢のため認知症になっていることがあります。そして、認知症が重くなると、法律上有効な意思表示を行うことができなくなります。
仮に、意思能力を欠いた相続人がいる場合、意思能力がないことを無視して遺産分割の合意を行ったとしても、分割は無効となります。従って、認知症の通院歴のある相続人がいる場合に、認知症であることを無視してそのまま遺産分割を行うことは、後で相続人の1人が遺産分割の無効を主張して争いを引き起こす可能性があるため、避けるべきです。
従って、相続人に認知症の症状がある人がいる場合は、まず認知症についての症状を確認の上、善後策について弁護士に相談することをお勧めします。なお、認知症であっても、軽度であれば、意思能力が認められる可能性は十分にあります。
検討の結果、相続人が意思能力を欠いていると判断される場合、他の相続人は、裁判所に後見人の選任を申立て、本人の代わりに後見人が遺産分割の合意を行います。
後見人の選任を申し立てる場合、相続人は、候補者を決めて申し立てることができます。後見人自身が相続人である場合を除き、後見人は、被後見人の代理人として遺産分割の合意を行うことができます。
後見人の選任の申立を行うためには、裁判所に以下の書類を提出します。
①申立書
申立書の書式と記入例は、以下の通りです。
【申立書の書式】(裁判所ホームページより)
【裁判所ホームページ上の説明 】
②申立事情説明書
③親族関係図、親族の同意書
④財産目録
⑤収支状況報告書
⑥後見人等候補者事情説明書
⑦診断書(後見用)
⑧本人の現在の戸籍謄本と住民票
⑨後見人候補者の現在の戸籍謄本と住民票
⑩本人の登記されていないことの証明書
「登記されていないことの証明書」は、既に本人について後見が開始していないことを確認するためのものです。法務局で取り寄せます。 申立書に収入印紙(申立費用800円、登記費用2600円)と郵便切手2980円を添えて裁判所に提出します。
後見人の選任の申立は、親族や利害関係者が自分で行うこともできますが、すべてを自分で行うことは手間がかかるため、弁護士に代理人となることを依頼することもできます。
後見人自身が相続人の場合、遺産分割については、後見人と被後見人(すなわち認知症の方)との間で利益相反が生じます。従って、後見人を選任しても、後見人が自ら被後見人を代理して遺産分割の合意を行うことはできません。
そこで、後見人の選任に加え、更に遺産分割に利害関係のない人を後見人の特別代理人として選任するよう裁判所に申立を行います。
特別代理人の選任手続については、【相続人が未成年者の場合】をご覧下さい。
弁護士からのメッセージ
相続のトラブルについて自分で相手と直接交渉すると、感情がからみ、ストレスが溜まります。
また、今後どうして良いのかや、結果が分からないため、「もやもやとした気持ち」に悩まされ続けます。毎年、沢山のお客様が、このような気持ちを抱えて当事務所にお越しになります。
そして、ご相談・ご依頼の後、多くのお客様の表情は、見違えるほど明るくなります。
まだ問題が解決していなくても、直接交渉のストレスから解放され、問題が解決していく道のりを知るだけで、気持ちは大きく変わるのです。
これは、登山の途中で、山道の続く先に山頂を見付けた時の気持ちと同じです。
あなたもストレスや不安な気持ちに別れを告げるために、思い切って一歩を踏み出しましょう。ご相談をお待ちしています。
弁護士 加藤 尚憲