遺留分算定の基礎となる財産は、原則として、次の式により求められます(民法1043条、1044条)。
遺留分算定の基礎となる財産=すべての相続財産+相続人に対する生前贈与の額(原則10年以内)(*1)+第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)(*2)-相続債務の額(*3)
贈与も相続債務もない場合は、すべての相続財産がそのまま遺留分算定の基礎となります。また、例外的に、相続財産以外の財産が遺留分算定の基礎になることがありますが、その場合については、後に説明します。
(*1)贈与が特別受益に該当する場合に限られます。特別受益については、【特別受益】をご覧ください。
逆に、被相続人と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与した場合は、10年以上経過してもその価額が遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。
(*2)被相続人と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与した場合は、1年以上経過してもその価額が遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。
(*3)相続債務の額
相続債務は、マイナスの相続財産であるため、相続債務の額は、遺留分の算定の基礎となる財産から除かれます。
相続財産に不動産や有価証券が含まれている場合、遺留分を算定する際に、相続財産の価額を評価する必要があります。
そのような場合は、相続開始時の価額(実勢価格)が基準となります(東京家裁昭和33年7月4日審判)。仮に相続開始後に価格が変動したとしても、遺留分の算定には影響しません。
① 家族の紹介
良太郎さんには、長男の太郎さんと二男の次郎さんがいました。
良太郎さんの妻の和子さんは10年前に亡くなりました。
②良太郎さんの遺言
ある日、良太郎さんが天寿を全うして亡くなりました。良太郎さんは、太郎さんにすべての財産を相続させるとの遺言書を残していました。次郎さんは、遺留分として、どれだけの相続財産を相続することができる権利があるのでしょうか。
③遺留分の基礎とすべき相続財産
良太郎さんが亡くなった時、良太郎さんの相続財産は以下の通りでした。
①自宅(7500万円相当)
②山林(500万円相当)
③預貯金(4000万円)
以上合計1億2000万円相当
良太郎さんは、死因贈与を行わず、相続債務もありませんでした。
この場合、遺留分算定の基礎となる財産の価額はいくらでしょうか。また、次郎さんの遺留分はいくらになるでしょうか。
遺留分算定の基礎となる財産・・・1億2000万円
次郎さんの遺留分・・・3000万円
良太郎さんの相続において、次郎さんの個別的遺留分は、それぞれ1/4です(【遺留分権利者と遺留分の割合】)。
他方で、相続開始時のすべての相続財産は、1億2000万円です。
従って、相続開始時のすべての相続財産(1億2000万円)がそのまま遺留分の基礎とすべき財産となります。
太郎さん、次郎さんそれぞれの遺留分は、遺留分の基礎とすべき財産(1億2000万円)に、遺留分の割合(1/4)をかけた3000万円となります。
被相続人の相続財産の形成に寄与した人がいる場合、寄与分が認められる場合があります(【寄与分】)。
そこで、遺留分を計算するにあたり、寄与分の対象となる相続財産が、遺留分の計算の基礎となるかが問題となります。すなわち、寄与分と遺留分のどちらが優先するかの問題です。
判例は、遺留分が寄与分に優先すると判断しています(【寄与分と遺留分の関係】)。
上記(3)の具体例と同じ事案で、良太郎さんが、死亡する半年前に生前贈与として太郎さんに預貯金のうち500万円を渡していたとします(預貯金の残額3500万円)。
この場合、遺留分算定の基礎となる財産の価額はいくらでしょうか。また、次郎さんの遺留分はいくらになるでしょうか。
遺留分算定の基礎となる財産・・・1億2000万円
次郎さんの遺留分・・・3000万円
つまり、上記(3)の場合と全く同じ結論になります。
この500万円は、既に太郎さんに贈与されたものである以上、相続の対象ではありません。
しかし、良太郎さんが太郎さんに500万円を贈与したのは、良太郎さんが亡くなる半年前のことでした。
従って、良太郎さんの太郎さんに対する贈与は、「相続開始前の1年間になされた贈与」として、遺留分の計算との関係では、遺留分算定の基礎となる財産として扱われます。
従って、本件において遺留分算定の基礎となる財産は、1億2000万円(1億1500万円(自宅、山林、預貯金の合計)+500万円)です。
結論として、法定相続人の遺留分の額は、太郎さんに対する500万円の贈与がなかったのと同じになり、その限りにおいて太郎さんと次郎さんの公平が保たれます。
遺留侵害額請求の方法やその効果については、次の項目(【遺留侵害額請求】)で説明します。
弁護士からのメッセージ
相続のトラブルについて自分で相手と直接交渉すると、感情がからみ、ストレスが溜まります。
また、今後どうして良いのかや、結果が分からないため、「もやもやとした気持ち」に悩まされ続けます。毎年、沢山のお客様が、このような気持ちを抱えて当事務所にお越しになります。
そして、ご相談・ご依頼の後、多くのお客様の表情は、見違えるほど明るくなります。
まだ問題が解決していなくても、直接交渉のストレスから解放され、問題が解決していく道のりを知るだけで、気持ちは大きく変わるのです。
これは、登山の途中で、山道の続く先に山頂を見付けた時の気持ちと同じです。
あなたもストレスや不安な気持ちに別れを告げるために、思い切って一歩を踏み出しましょう。ご相談をお待ちしています。
弁護士 加藤 尚憲