相続の限定承認を行った相続人は、相続人として被相続人の権利義務を承継します。ただし、相続によって得た財産の限度でのみ被相続人の債務を弁済する責任を負います。
例えば、故人に借入金があった場合、限定承認を行った相続人は借入金を返済する義務を負いますが、あくまで相続財産から弁済をすれば足り、それ以上の弁済をする必要はありません。
限定承認は、熟慮期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述することによって行います(民法924条)。
相続人が複数の場合、限定承認は、共同相続人の全員が共同で行う必要があります(民法923条)。ただし、相続放棄を行った相続人は当初から相続人ではなかったものとみなされるため、相続放棄を行う相続人と限定相続を行う相続人の双方がいても問題ありません。
相続の限定承認を行うためには、以下の書面を裁判所に提出します。
①申立書
【申立書の書式】(裁判所ホームページより)
【裁判所ホームページ上の説明】
②戸籍謄本
(a)被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本ないし除籍謄本
被相続人の死亡を確認するためです(【被相続人の死亡を証明するとき】)
(b)限定承認をしようとする人が法定相続人の全員であることがわかる戸籍謄本
限定承認を法定相続人の全員が共同で行うものであることを確認するためです(【法定相続人全員の範囲を証明するとき】)
③住民票
(a)被相続人の住民票除票又は戸籍附票
被相続人の住所を特定するためです(【住民票と戸籍の附票】)
①手続の主体
限定承認の申述が行われた後、相続財産と相続債務を確定し、相続財産の換価と、相続債権者に対する弁済が行われます。
これらの手続は、相続人(共同相続人がいる場合は、そのうちの1人である相続財産管理人)が自ら行い、裁判所は関与しません。
②公告の掲載
限定承認を行った相続人は、限定承認をした後5日以内(相続財産管理人が選任された場合は選任があった後10日以内)に、官報に被相続人の債権者は名乗り出るべき旨の公告を掲載する必要があります(民法927条)。
③知れたる債権者への催告
限定承認を行った相続人は、債権者であることが判明している者に対して、債権の届出を行うよう個別に通知します。
④弁済
相続人は、債権届出期間の経過後、債権を申出てきた被相続人の債権者等に対して弁済を行います。また、弁済のために必要なときは相続財産の競売を行います(民法932条本文)。
相続人は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、競売を止めることができます(民法932条但書)。
相続財産の中にどうしても手元に残したい財産があるときは、その価値に見合った金額(鑑定人の評価額)を支払うことにより、その財産を手に入れることができます。
限定承認により資産の移転があった場合、時価で資産の譲渡があったものとして、所得税が課税されます(所得税法59条)。
限定承認の申述は、年間1000件弱程度のようです(司法統計年報平成23年度)。
限定承認の手続は、単に家庭裁判所に申述するだけでは終わらず、相続人自らが財産を管理し、競売を申し立てるなど、自分で最後まで手続を進める必要があります。
更には、これらに付随して、財産目録、債権届出の催告書、公告などの作成も必要となります。これらを自ら行うことが困難な場合は、弁護士に依頼することをお勧めします。
弁護士からのメッセージ
相続のトラブルについて自分で相手と直接交渉すると、感情がからみ、ストレスが溜まります。
また、今後どうして良いのかや、結果が分からないため、「もやもやとした気持ち」に悩まされ続けます。毎年、沢山のお客様が、このような気持ちを抱えて当事務所にお越しになります。
そして、ご相談・ご依頼の後、多くのお客様の表情は、見違えるほど明るくなります。
まだ問題が解決していなくても、直接交渉のストレスから解放され、問題が解決していく道のりを知るだけで、気持ちは大きく変わるのです。
これは、登山の途中で、山道の続く先に山頂を見付けた時の気持ちと同じです。
あなたもストレスや不安な気持ちに別れを告げるために、思い切って一歩を踏み出しましょう。ご相談をお待ちしています。
弁護士 加藤 尚憲