Q.
先月、内縁の夫が死去しました。夫に子供は一人もなく、両親も既に他界し、兄弟・甥姪もありません。夫の相続はどうなるのでしょうか。
A.
相続財産管理人選任の申立を行うことをお勧めします。
残念ながら内縁の妻はいかなる場合も法定相続人となることができません。また、ご主人には法定相続人となる資格のある方が一人もいらっしゃらない以上、このまま放置しておくと、誰もご主人を相続することができません。
このような場合は、まずは裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、次に、特別受益者に対する財産分与を申し立てることにより、あなた自身が相続財産の分与を受けることができる可能性があります。
相続財産管理人選任の申立は、相続人が存在しないことが前提となっています。相続人が存在しない場合には、以下の2通りがあります。
①法定相続人が最初から存在しない場合
法定相続人となる資格のある人、すなわち配偶者、直系卑属(子・孫など)、直系尊属(父母など)、兄弟姉妹・甥姪のうち、生存している人が1人もいない場合です。
②法定相続人が全員相続放棄した場合
相続人が存在しない場合、利害関係人(例:内縁の妻など特別縁故者に対する財産分与の申立を行う資格のある人)は、裁判所に相続財産の管理人の選任の申立を行うことができます(民法952条)。
相続財産管理人選任の申立を行うためには、以下の書面を裁判所に提出します。
①申立書
【 申立書の書式 】(裁判所ホームページより)
【 申立書の記載例 】(裁判所ホームページより)
【裁判所ホームページ上の説明へのリンク】
②戸籍謄本
(a)被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本ないし除籍謄本
被相続人の死亡の事実を確認するためです(【 被相続人の死亡を証明するとき 】)。
(b)法定相続人が存在しないことがわかる戸籍謄本
法定相続人が一人もいないことを確認するためです(【 法定相続人全員の範囲を証明するとき 】)。
③住民票又は戸籍の附票
被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票
被相続人の住所を特定するためです(【 住民票と戸籍の附票 】)。
④財産を証する資料
管理すべき財産を特定するためです。
⑤利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料
⑥財産管理人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票
裁判所は、申立があると、相続財産管理人を選任します。
①相続財産管理人選任の公告
相続財産管理人が選任されると、裁判所は、官報に相続財産管理人が選任された旨の公告を行います(民法952条2項)。
②相続債権者・受遺者への請求申出の催告
①の公告があった後2ヶ月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産管理人は、遅滞なく、官報に「相続債権者・受遺者への請求申出の催告」を公告します。
この公告には、すべての相続債権者及び受遺者に対し、2ヶ月以内に請求の申出をすべき旨、及び期間内に請求の申出がなかったときは弁済から除斥される旨が記載されます。
裁判所は、申立があると、相続財産管理人を選任します。
相続人が存在しないことが確定した後、特別縁故者の資格のある人は、特別縁故者に対する財産分与の申立を行うことができます。
この手続については、次の項目(【 特別縁故者に対する財産分与 】)で説明します。
誰も特別縁故者に対する財産分与を申立てなかった場合、または、特別縁故者に対する財産分与の後に残った財産がある場合は、財産は国庫に帰属します。
相続財産管理人の選任の申立は、年間1万5千件を超えるようです(司法統計年報平成23年度)。その多くが、特別縁故者によるものと推察されます。
弁護士からのメッセージ
相続のトラブルについて自分で相手と直接交渉すると、感情がからみ、ストレスが溜まります。
また、今後どうして良いのかや、結果が分からないため、「もやもやとした気持ち」に悩まされ続けます。毎年、沢山のお客様が、このような気持ちを抱えて当事務所にお越しになります。
そして、ご相談・ご依頼の後、多くのお客様の表情は、見違えるほど明るくなります。
まだ問題が解決していなくても、直接交渉のストレスから解放され、問題が解決していく道のりを知るだけで、気持ちは大きく変わるのです。
これは、登山の途中で、山道の続く先に山頂を見付けた時の気持ちと同じです。
あなたもストレスや不安な気持ちに別れを告げるために、思い切って一歩を踏み出しましょう。ご相談をお待ちしています。
弁護士 加藤 尚憲