相続の放棄を行った相続人は、最初から相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。従って、相続の放棄を行った相続人は、被相続人の権利義務を承継しません。
また、相続の放棄を行った相続人が「最初から相続人とならなかったものとみなされ」るため、相続の手続上、その相続人はいないものとして取り扱われます。その結果、他の法定相続人の相続分が増加したり、次の順位の血族が繰り上がって法定相続人となったりすることがあります。
例えば、配偶者と子2人が相続人の場合、子の1人が相続を放棄すると、最初から子が1人しかいなかったものとみなされるため、配偶者と子1人の場合と同じ相続分となります。
なお、相続の放棄による代襲相続は発生しません(【代襲相続】)。
相続放棄前
配偶者 1/2 ■
子① 1/4 ■
子② 1/4 ■
▼子② が相続放棄▼
相続放棄後
配偶者 1/2 ■
子① 1/2 ■
相続の放棄は、家庭裁判所への申述によってのみ行うことができます(民法938条)。
すなわち、単にその他の相続人に放棄すると伝えても、相続の放棄を行ったことにはなりません。
相続の放棄を行うためには、以下の書面を裁判所に提出します。
①申立書
【申立書の書式】(裁判所ホームページより)
【申立書の記載例(普通の場合)】(裁判所ホームページより)
【申立書の記載例(相続人が未成年の場合)】(裁判所ホームページより)
【裁判所ホームページ上の説明へのリンク】
②戸籍謄本
(a)被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本ないし除籍謄本
被相続人の死亡の事実を確認するためです(【被相続人の死亡を証明するとき】)。
相続放棄は、法定相続人全員で申し立てることがよくあります。特定の相続人のみが相続を放棄すると、他の相続人に債務が集中することになるからです。
ところで、法定相続人全員が相続放棄を行ったとしても、必ずしも相続人が誰もいないこととはならないことに注意する必要があります。
なぜなら、同順位の血族相続人全員が相続放棄を行った場合、次の順位の血族が繰り上がって相続人となるからです。
このように、誰も相続人がいなくなることを意図して相続放棄を行う場合は、繰り上がりを考慮して被相続人の兄弟姉妹に至るまで予め連絡し、対応を協議する必要があります。
相続人全員が相続の放棄を行った結果、相続人が誰もいないこととなった場合は、利害関係人は相続財産管理人の選任を申し立てることができます(【相続財産管理人の選任】)。
① 家族の紹介
良太郎さんと和子さん夫婦には、長男の太郎さんと二男の次郎さんがいます。
太郎さんと花子さん夫婦には、長男の小太郎さんがいます。
太郎さんが思いがけず病気で亡くなりました。
太郎さんは、亡くなる前に会社を経営していました。太郎さんが亡くなった時、太郎さんは会社名義の2000万円の借入の連帯保証債務を負っていました。
②太郎さんの相続
太郎さんの法定相続人は、小太郎さん(直系卑属(第一順位の血族相続人))と花子さん(配偶者)です。また、小太郎さんと花子さんの相続分は、それぞれ2分の1ずつです。従って、このままでは、花子さんと小太郎さんは、それぞれ1000万円の連帯保証債務を相続してしまいます。
③相続放棄
そこで、花子さんと小太郎さんは、相続放棄を行います。
すると、太郎さんの直系卑属がいないことになるため、直系尊属(第二順位の血族相続人)である良太郎さんと和子さんが繰り上がって法定相続人となり、法定相続分に従い連帯保証債務を相続してしまいます。
そこで、更に、良太郎さんと和子さんも相続放棄を行います。
すると、太郎さんの直系尊属が誰もいないことになるため(なお、良太郎さんと和子さんより上の世代の方は、全員亡くなっているものとします。)、兄弟姉妹(第二順位の血族相続人)である次郎さんが繰り上がって法定相続人となり、次郎さんは連帯保証債務を相続してしまいます。
そこで最後に、次郎さんも相続放棄を行います。
これで、やっと太郎さんの法定相続人は誰もいないことが確定します。
相続放棄の申述は、年間17万5千件程度あるようです(司法統計年報平成23年度)。
相続放棄は、あくまで相続財産に対する権利を放棄するものです。 従って、相続放棄は相続財産ではない財産の取扱いに影響しません。 例えば、故人が相続人を受取人として生命保険に加入していた場合、相続人は、例え相続放棄をしたとしても死亡保険金を受け取ることができます(【生命保険金】)。 また、故人の親族に対して支給される死亡退職慰労金についても同様です(【死亡退職金】)。
相続放棄の申述の申立は、戸籍謄本の取得や財産目録の作成が必要なため、自分で行うことが困難な場合には、弁護士に依頼することができます。
弁護士からのメッセージ
相続のトラブルについて自分で相手と直接交渉すると、感情がからみ、ストレスが溜まります。
また、今後どうして良いのかや、結果が分からないため、「もやもやとした気持ち」に悩まされ続けます。毎年、沢山のお客様が、このような気持ちを抱えて当事務所にお越しになります。
そして、ご相談・ご依頼の後、多くのお客様の表情は、見違えるほど明るくなります。
まだ問題が解決していなくても、直接交渉のストレスから解放され、問題が解決していく道のりを知るだけで、気持ちは大きく変わるのです。
これは、登山の途中で、山道の続く先に山頂を見付けた時の気持ちと同じです。
あなたもストレスや不安な気持ちに別れを告げるために、思い切って一歩を踏み出しましょう。ご相談をお待ちしています。
弁護士 加藤 尚憲